「コロナ禍」期間は1日1本以上の動画制作・配信も
2020年前半に襲来した「新型コロナ禍」は、我々の社会生活の在り方に大きな影響を及ぼした。とりわけテレワークなどにおける動画の活用は、従来の予測を5年以上早める形で普及が広がったと言われる。一方、日本最大級の職業会計人集団「TKC全国会」を擁する会計情報サービスの株式会社TKC(本社:宇都宮市)は早くから動画活用の可能性に着目。日本全国が新型コロナに伴う混乱に覆われる中、TKC全国会の会員事務所に役立つ最新の情報を動画で届け続けた。
(写真 : 研修室全景)
TKC全国会は、税理士・公認会計士約1万1,400名が在籍する、日本最大級の会計人集団。「自利利他」を基本理念とし、事業目的として「租税正義の実現」「税理士業務の完璧な履行」「中小企業の存続・発展の支援」「TKC会員事務所の経営基盤の強化」「TKCシステムの徹底活用」「会員相互の啓発、互助および親睦」を掲げている。
こうした理念、事業目的を達成する上で、会員による情報発信および会員への情報提供はTKC全国会の最も重要な取り組みのひとつだ。
「立ち上げ当初から、表・グラフなどのビジュアルを用いた資料、カラーの採用などを積極的に進めてきました。動画への取り組みもISDN回線環境だった98年ごろからスタートしており、早くから動画の有効性を評価していました」(TKC栃木本社システムエンジニアリングセンターIT投資企画部長・金森直樹氏)。
当時としてはかなり先進的な取り組みが採り入れられた背景には、迅速な情報提供を追求し、かつコミュニケーションを重要視していたという株式会社TKC名誉会長の飯塚真玄氏の意向が強く反映されていたという。
動画による情報発信を進めてきたTKCは、2014年にNewTek TriCaster 40を導入。配信動画のMP4ファイル化を進め、サービスの高度化を図った。
「本格的な動画制作システムの導入は、いわば素人である我々にとって難しい判断となりましたが、将来を見据えた上で『自分たちで動画を制作するノウハウ』が必要になるだろう、と。現在では、その決断が正しかったと証明されています」(金森氏)。
「動画制作の素人」たる金森氏らが進めたのは、操作の徹底したマニュアル化。利用する機能やボタンを必要最低限に絞り、その限られた操作の中で動画制作を行えるよう工夫を重ねた。
そうした努力を重ねた結果、2019年にはNewTekポータブル映像制作システムの最新型機「TriCaster TC1」へと更新。多いときには1日1本以上のペースで会員たちへ動画による情報発信を展開している。
「初期投資は決して安くはありませんでしたが、動画制作のために毎回機材を借り、技術スタッフを呼んでいては現在のようなペースでの情報発信は不可能。『コロナ禍』において会員の皆様および顧客である中小企業の皆様にとっても重要な情報発信が数多く求められる中で、そうしたニーズにお応えすることができたのはやはり、早くから自前での動画コンテンツ制作に努めた結果だと評価しています」(同)。
(写真 : TC1含む機材一式の前に座る金森氏)
「TriCaster TC1」は現在、宇都宮本社に1式、そして今回取材した東京・新宿区の飯田橋スタジオに2式配備されている。
「基本的には、研修室で開催されるセミナーの様子を撮影・収録し、そちらを編集してオンデマンド提供する形です。また、別会場のモニターなどにライブでそのまま配信するケースもあります」(金森氏)。
研修室には天井据え付け型のカメラが2式用意されており、随時、スイッチングでの切り替え可能。カメラは基本的に手動操作を行わず、パン・チルト・ズームは予め設定されたとおりの動きをコントロール装置からワンタッチで行う形だ。
コンテンツの内容はシンプルで、固定カメラで撮影された講師を捉えた画面、NDI経由で取得するPC上の資料画面を切り替え、または2画面で表示する構成。PC資料画面を大写し、講師画面をワイプ状に表示するスタイルがよく用いられているようだ。
また、研修室に併設されるスタジオサブの隣には、小規模ながらグリーンバックの合成用スタジオを用意。簡易な研修用素材を制作できる体制を整えている。
「前型の導入から6年ほど経過して、各部署に1~2人は『TriCaster』を操作できるスタッフが育成できています。飯田橋ビルの中でも10人以上は操作できる体制です」(金森氏)。
最新のオールインワンモデル「TriCaster TC1」導入からは1年あまりが経つが「(筐体を見て)最初は戸惑いましたが、実際に利用するボタンは6~7個。担当ごとに多少異なるので、それぞれの利用しやすい配置をメモリーして使い分けています」(同)。
なお、飯田橋スタジオにあるもう一式は「持ち運び用」で、研修室以外の場所で収録を行う際などのために用意されている。
(写真 : 天井据え付けカメラ)
(写真 : グリーンバックのスタジオ)
TKC全国会による研修用動画の配信は、会員からも極めて好評だ。
「トップクラスの専門家による講習を1万人以上の会員が受講できる。法改正・制度改正などタイムリーな情報も動画でわかりやすく届けることができるので、多くの会員の方が積極的に活用されています」(金森氏)。
実際に利用している会員に聞いてみると「オンデマンドでいつでも、何度でも視聴できるのはありがたい。使われている資料のプリントアウトも可能で、動画ならではのわかりやすさもある」(税理士・馬場義男事務所 馬場悠輔氏)と、オンデマンドならではの利点は高く評価されているようだ。
TKC全国会では、税理士が専門家としての能力を維持・向上し、事務所の総合力を高める目的で「生涯研修」を提唱。年間54時間以上の受講を定めているが、この「オンデマンド研修」も研修時間としてカウントされることも、活用増に寄与しているようだ。
「日本全体でコロナ禍を乗り越えようという現在、中小企業を支える会員の皆様にいち早く情報を届けることのできる環境を構築できていたのは極めて大きい。改めて、早い段階で『TriCaster』を導入しておいてよかった、と考えています」(金森氏)。
動画コンテンツの制作については「とても高度なことをやっている、と思っていただけることが多いのですが、実際には操作しているボタンは、前述のとおり6~7個。『TriCaster』の機能性に支えられている面もありますが、それでも『これだけの動画を制作できる』という認識が進めば、我々のように動画を活用する企業が増えてくるかもしれません」(同)。
緊急事態宣言中の在宅推奨期間には、アクセス増により回線使用料が定額分を超えることもあったとか。動画配信活用時代の到来は、今回の騒動で確実に早まったようだ。